こどものころ、父さん(ひでおみちゃん)によく水戸や笠間の美術館につれてってもらった。家族で旅行するときは母さん(ひろこちゃん)がいつもイライラした。おむすびとかお弁当はおいしく感じた。
ひろこちゃんは足が痛いから山にはのぼらなかった。ひでおみちゃんはよくぼくを山につれていった。火は四角いカセットコンロだったし、靴もスニーカーだったけれど、ぼくは山を好きになった。一度遭難しかけて、避難小屋を探しにいったひでおみちゃんを何時間か孤独に凍えながら、つぶれたテントの中で待った。寒くて眠れないのにいつの間にか寝ていた。朝、太陽はすごく良かった。太陽は月よりもずっと遠くにあるけれど、ぼくの顔を暖めた。
那須の山を超えた向こうに宿があって、温泉に白人の女の人がまっぱで入っててドキドキした。
おとなになってから一人で山に行くようになった。一人はすごくいい。山の中でどこに行くのも自分で決められた。でも夜は恐ろしかった。暗闇をはじめて知った。音や匂いからいろんな想像力がかきたてられた。そんな時、火は良かった。特に焚き火は良い。燃やすとすごくいい匂いのする木もあった。火を見ながら考え事をするのが好きだった。焚き火はミニマムな建築だと思った。空気の粘りを知らないと小さい焚き火は維持できなかった。大きい焚き火は簡単だ。何種類かの鳥の声を聞き分けられるようになった。鳥の名前は知らない。
春や夏の山にはたくさんいろんな植物を見た。
それらにはきっとそれぞれに名前があるんだろうけれど、名前をつけられるずっと前からその植物は存在している。
2011年3月4日金曜日
鳥の名前